「ぁいたっ!!」
甲板でボンヤリと海を眺めていた僕に、突然何かがぶつかった。
それも上から。
見張り台から誰かが何かを落としたのか?そう思ってぶつかった物を確かめる為に目を向ければ、其処には僕よりも年下の麦の穂みたいな髪をした少年が先程ぶつかった為か頭を抑えて蹲っていた。
「…ぇ…君、誰?」
俺がそう声を掛けると、少年は僕の存在を思い出した様で急いで顔を上げた。
「っ!」
やばい、もの凄い僕の好みの顔だ。思わず、まじまじと顔を見詰めてしまう。
あ、瞳も髪と同じ色だ。でも、こっちは麦の穂というより琥珀みたいだ。
じっと見詰めていると、薄紅色の唇が開かれて未だ声変わりの済んでいない少し高めの声が紡がれる。
「俺はテッド、死神だ。お前に会う為に此処に来た」
「……はぁ」
なんとも笑えない冗談だ。特に此の罰の紋章を持っている僕にとって、死神なんて冗談でも聞きたく無い話だ。
それに顔にばかり意識がいっていたが、良く見ると此の少年、少々変わった格好をしている。
裾が赤く染まった白いブード付きのマントで身体を覆っているし(フードは僕とぶつかった衝撃で取れている様だった)、マントを止める為か首元には太い鎖が巻かれている。
……本当に死神だったらどうしよう。
「お前、疑ってるな。…まぁ、突然死神とか言われたって普通は信じないな」
お前、そんな物宿してる割に常識人なんだな。テッドと名乗った少年は少し苦笑してそう呟いた。
「なんで此の紋章の事を…」
僕が驚いて尋ねれば、テッドは僕の目を見詰め返し再び口を開く。
「それは俺が死神だからだ、いい加減信じろ。ま、安心しろよ。俺は別にお前を殺しに来た訳じゃないから」
お前が、嫌、お前たち軍が殺す事になる人間を迎えに来たんだ。そう言いながらテッドはあの変わったマントを脱ぎ始めた。
もぞもぞとマントに覆われて苦戦しているテッドを見ながら、僕はぼんやりと考える。
あぁ、やっぱり僕のやってる事は人殺しなんだ、と。
「…なんか変な事考えてるみたいだから言っとく、人を殺さない戦争なんか無いんだからな。あんまり自分を追詰める様な思考は控えろ、軍主が揺らげば軍が揺らぐ事になる」
マントを脱ぎ終わったテッドが僕を睨んでそう言った。…もしかして、僕を慰めてくれてるのかな、此れって。
「…ありがとう」
なんとなく、慰められた事が嬉しくてお礼を言った。そんな僕をテッドはちらりと見るとそっぽを向いてしまう。
「ふん、別にお前の調子が悪くなると俺が来た意味が無くなるから言っただけだ。勘違いするなよ」
俺は別に馴れ合う為に来たんじゃないんだからな、そう言ったテッドの耳は赤く染まっていた。
僕は無償に此の目の前の自称死神の少年が可愛く思えた。
顔だけじゃなくて、なんだかほっとけない性格をしているのだ、此の少年は。
そんな事を思っていると、テッドがまた話しを始めた。
「ま、そんな訳で今日から俺も此の船で厄介になるからよろしくな、リーダー。…あぁ、ちゃんと言われれば戦闘にも参加する、心配するな」
驚いてテッドを見れば、背けていた顔を戻し、にやりと笑うテッドと目が合った。
其の時僕は思った、なんだか此の少年にはかなわない気がする、と。
でも、その可愛さにそんな事すら些細な事のように思える所が、此の(僕より)小さな死神の一番たちが悪い所だろう。

こうして、僕の所に此の強かで小さな死神が居座る事になったのだった。


“どうしようも無い僕の所に、小さな死神がやって来た”〜運命の出会い(笑)編〜