ヒュンと空気を切り裂く音がし、耳障りな断末魔のあと魔物の巨体が倒れる音が辺りに響いた。
たった一本の矢で相手の急所を的確に狙い、倒す。
其の正確さは死神故なのか、それとも彼自身の腕による物なのか僕には判断できなかった。
だけど一つだけ断言できる事がある。それは、彼は異常な程強いという事。
厳粛に射られる矢、畏怖すら覚える魔力の量。そして、戦況を読む的確な判断力。其の何れもが此の少年を唯の子供ではないと戦闘の度に僕に知らしめるのだった。
だけど、僕は知っている。
此の少年が戦闘が終わる度、酷く泣き出しそうになるのを耐える様な表情をするのを。
ぎゅっと拳を握り、何かを耐えるように真っ直ぐ前を睨みつける。
普段なら人の視線に敏感な彼が、この時は僕がまじまじと見詰めているのすら気付かない。
魔物の死にすら心を痛める此の少年は、此れから起こる戦争に本当に耐える事が出来るのだろうか。
あまりに多い死に心が壊れてしまうんじゃないだろうか。
きっと、嫌、絶対この少年は死神に向いていない。
未だ短い間の付き合いだが、僕はそう断言する。
テッドは死神に向いていない。何度だって言ってやる。
本当はテッド本人に言ってやりたいんだけど、其れはあまりに可哀想な気がして言っていない。言ったら彼は泣き出してしまうんじゃないか、そんな馬鹿な想像が僕にその言葉を言わせなかった。
だって、僕が見る限り、テッドは好んで死神をやっているようには見えなかったから。
そんな彼がどうして死神なんかをやっているのか僕は知らない。
テッドは自分の事を全く話そうとしないから。
テッドが自分の事を話したのは、甲板で僕と出会った時の自己紹介くらいだ。
何時かテッドが、僕に自分の事を話してくれるようになると良いのに。僕はそう思って空を見上げた。
果てしなく広がる空の青さが目に沁みて、思わず涙が出そうなる。
そんな目元を、日差しを遮る振りをして片手で被いながら僕は自覚した。
テッド、僕は君の支えになりたいんだ。

僕より小さな死神よ、どうか一人で泣かないで。


“どうしようも無い僕の所に、小さな死神がやって来た”〜恋心自覚編〜