どうして棍を使わなかったかなんて、そんな事僕にだって分らない。
唯、気付けば慣れ親しんだ棍では無く、鈍く銀色に光るソレを握り締めていたんだ。

温かい飛沫が僕の頬を濡らして、その温かさに思わず僕は微笑んだ。
「あたたかい…ねぇ、テッド、君は温かいよ」
こんな風に直に君のあたたかさを感じられるなんて、
(あぁ、なんてしあわせ)
じわじわとテッドの青い服が鮮やかな赤に染まっていき、僕はその様子をじっと見詰めた。
動かないテッド。もう、君は何も話さない。
何も見詰めないし、誰かに触れる事も無い。
もう此れで、君が誰かに心惹かれる事なんて無いね。
(あぁ、それはなんてすてきなことなんだろう)
やがて真っ青だった服は僕と同じ赤一色に染まった。
「あははっ、お揃いだねテッド。此れで僕たちお揃いだよ」
僕はテッドの頬に飛び散った赤を指で拭い、その赤を青ざめた唇へと塗り付ける。
そうすれば、テッドの唇は紅をひいた様に鮮やかな赤へと変わった。
「テッド、大好きだよ」
そう囁いて、赤く染めた唇を僕は己の唇で塞ぐ。
鉄臭い臭いと味がしたが、僕は大して気にならなかった。
そして、反応の返ってこないその口内を縦横無尽に貪る。そうすれば、冷たくなりかけていたテッドの口内は徐々に温かくなり、その変化に僕は満足する。
僕の体温で温かくなったテッドの口内を更に貪ってから漸く、僕はテッドから顔を離した。
鈍く光る唾液の糸が僕とテッドを繋ぐのを視界の端に眺めながら、僕はテッドの頬に飛んだ赤が黒く変色しているのに気付く。
黒くなった赤を指の腹で擦れば、渇いた其れは簡単に落ち、テッドの頬を綺麗にしながら僕は赤く染まった青へと目を向ける。
「…あーあ、せっかくお揃いになったのに……もう一回染め直した方が良いよね、此れじゃあ」
返答の無いテッドにそう言って笑いかけると、僕は床に放り投げたままになっていた今や赤黒くなりかけた銀色のソレを手に取った。
「お揃いだよ、テッド。僕ら此れでお揃いだから、だから安心してよ、テッド…」
そうして僕は握り締めたソレで自分の首を掻き切った。
霞む視界にテッドと同じ赤が吹き上げ、僕とテッドを赤に染めていくのが見えた。
(お揃いだね、僕たち。
         此れでお揃い…。
               あぁ!なんて幸せ!!)


“輝かぬ星屑”