「どれだけ此の想いを口にすれば、君は私の想いを信じてくれるんだい?」

此の想いを自覚してから、私はずっと君を見て来た。だから、君が私の事を憎からず想っていてくれているのだって知っているんだよ。
…そう、君が過去に囚われている事も、私は気付いている。
だけど、よく考えてくれ。私が君を憎んでも、私達が被害者の息子と加害者の関係を続けても、母は生き返ったりしないのだよ。
死者は死者でしかない。死ねば其の存在は過去になる。過去は現在に干渉する事などしない、現在(いま)は私達生きている物が創っていく物なのだから。
もし、過去が現在に干渉するとすれば、其れは生きている者の感傷に因ってでしかない。私に言わせれば、そんな感傷など結局、きつい言い方ではあるが生きている者の自己満足でしかないのだ…。

「私はそんな感傷などで君を逃したくはないのだよ」

一人きりの部屋に自分の声が響いたが、それに答える者は居ない。居ないからこそ声に出したのだ。
冷めてしまった紅茶に口を付けながら、私は仕事に忠実な愛しい人形に想いを馳せた。
自分の想いも、人の想いも必死で否定し続ける、あの愚かで愛しい私の人形がどうすれば私の想いを信じてくれるのか、と…。
人形の戻る気配は未だ無い。
「さあ、今日はどんな言葉で愛を語ろうか」


“幾億万の愛の言葉で”