「さよならだね」
 ロイは花形役者を目指すんだってさ。
 だから、女王騎士長の僕とは今日でお別れ。
「…あぁ」
 ロイが何時もより少し元気の無い声で答えた。
 …ロイも僕と離れるのを寂しいと思ってくれてるの?
 そうだったら嬉しいな…。
 僕はロイと離れるのを寂しいと思っているから。
 だって、僕はロイが好きなんだ。
 好きな人と離れ離れになるのは誰だって寂しいよ。
「…ねぇ、ロイ。目、瞑ってよ」
 ロイの眼を見詰めてそう言えば、ロイは僕を黙って見詰め返した。
 其の眼が言葉以上に語っていた、ロイも僕の事が好きなんだって。
 本当はお互いずっと前から好きだった。
 でも、お互いの立場から言えなかっただけなんだノ。
 そして、其れはきっと言えない侭終る。
「分った」
 じっと僕の眼を睨んでいたロイが声を出すと、僕とロイの間に在った緊張の糸が切れる。
 其の侭ロイは眼を閉じた。
 僕は眼を閉じたロイにそっと顔を近づける。
 渇いた唇が軽く重なって、僕たちはキスをした。
 最初で最後のキスだ。
 でも其れはあっという間に離れてしまった。
 …自分が離したのにそう感じるなんて、僕はきっとどうかしているかもしれない。
「此れでお別れだね」
 ロイがゆっくりと眼を開いていくのを、僕はじっと見詰めていた。
 目蓋が上がりきって、ロイの金色の瞳が僕を映す。
 僕も、僕の蒼い瞳にロイを映す。
 お互い此れが見納めだから、忘れない様に焼き付けておかないと。
「……そうだな」
 ロイは僕を真っ直ぐに見詰めて、別れの言葉を肯定した。
 あぁ、此れで僕たちは離れ離れになるんだ。
 さよなら、僕の恋しい人。
 さよなら、幼く淡い、僕の初恋。
 僕は覚悟を決めて其の言葉を口にする。
「じゃあね」
 これで、僕とロイは本当にお別れだ。
「あぁ」
 其の返事を切っ掛けに、僕たちは互いに背を向けて歩き出した。
 僕は城に向かい、ロイは船に向かった。
 お互いに振り返ったりはしない。
 交差していた僕たちの人生は、この時をもって擦れ違ったんだ。


 ”此処でお別れ”