俺が女だったら良かったのに。
 最近そんな馬鹿な事ばかり考えている自分が居る。
 ホント馬鹿だ。頭悪過ぎだろ、俺。
 俺が女になったって王子さんは俺の事なんか見ちゃくれないってのに。
 なんでこんな馬鹿な事考えてまで、在りもしない希望を見つけようとするんだか、俺は。
 ……そんなの解ってるさ。
 解ってたって、認めたく無い事があるんだ。
 アンタが好きだなんて、どうしようも無いくらいに好きだなんて、そんなの認めてどうなるってんだよ。
 認めたら、此の気持ちを自覚したら、俺はアンタの傍に居られなくなる。
 アンタの向ける笑顔に笑って返す事ができなくなる。
 アンタの傍で今まで見たいに接するなんて出来なくなっちまう。
 そんなの嫌だ、嫌なんだ。
 アンタの傍に居たい。
 王子さん、俺はアンタの傍に居たいんだ。
「…王子さん、俺はアンタの為に死にたい……っ」
 アンタの心の本の隅で良いんだ、名前だけで良い、俺の存在を覚えておいて欲しかった。
 でも、それと同じくらい俺の事を忘れて欲しかった。
 優しい王子さんは、こんな俺が死んでもきっと心を痛めるだろうから。
 此の馬鹿げた願いと矛盾した想いを抱いて、きっと俺は死んでいくんだろう。
 王子さん、俺は…。


 そんな事を思って涙を零した数日後、俺は自分の念願が叶う事を知らせる手紙を手に入れた。
 あぁ、王子さん。望みが叶うって言うのに、俺は未だに自分の心が解らないんだ。
 俺は王子さんに……


 ”忘れないで…忘れて欲しい”