「今度もまた、君は死んでしまったよ…ロイ」
誰も居ない部屋でベットに腰掛け、僕は一人呟いた。
目蓋を閉じれば、降り注ぐ矢に為す術もなく貫かれるロイの姿が鮮やかに再生される。
もう、幾度となく繰り返された光景。
ループする世界。
一定の未来まで進むと、また過去の同じ時間地点に戻される。此処がそんな世界だと僕が気付いたのは、いったい何時の事だったのだろう。
此の戦争が終結を迎えると、僕はまた戦争が始まる直前、視察から帰って来たあの時へと戻される。


戦争が始まる前に止める事だって、今の僕には選べる。何故なら、僕はこれから起こる事を全て知っているんだから。
でも、僕は全ての陰謀を黙って見逃す。
戦争が始まるのを決して止めたりしない。
…だって、戦争が始まらないと僕はロイに出会えないじゃないか。
「ロイ……」
何度も出会い、そして別れを繰り返す愛しい者の名を口にする。
父に、母にリムに…全ての人々に悪いとは思う。だけど、此の戦争がなかったら僕はロイと出会えないんだ…。


ロイと出会ってから、そこからが僕の本当の闘いの始まりだった。
此の時間の繰り返しに最初に気付いた時、僕は絶対にロイを助けようと誓った。
だから、僕はその為に篭城をせず本拠地を捨てた。なのに…っ!!
なのに、ロイは死んでしまった。
それも僕の身代わりとして、だ。
もう、何千回と繰り返しただろう。前回の歴史を回避しても、結局最後にロイは僕の身代わりとして死んでしまう。
どう足掻いても覆らない事象。
予め決められているかの様な運命。

『ロイは僕の所為で死ぬ』

其れが、此の世界の掟。
それでも僕は繰り返す。もう、此の世界が何度目なのかも忘れてしまったけれど。
全てはロイに逢う為に。
刹那の様な逢瀬の為に、僕はまた此の国を戦火へと引きずり込むのだ。

だって、僕には「ロイと出会わない」世界なんて認められないもの。

全ては僕の愛で巡るのだ。

『巡れ、世界。全ては僕の愛の侭に』



Retrogression World 〜逆行世界〜