王子さんの白銀の髪が俺の頬を掠める。
 俺よりもがっしりとした胸に顔を埋め、しがみついた背中に爪を立てないように俺は必死だった。
 綺麗な王子さん。そんな王子さんに俺は、俺と交わると言う穢れを押し付けている。俺は、綺麗な王子さんをこれ以上俺なんかで汚したくなかった。
 俺がこんな風になったのはあの時からだ…
「俺は汚いんだよ、王子さん…」
 そう言った俺を王子さんは否定した。汚れてなんかいないと、俺は綺麗だと。
 違うんだ、王子さん。俺はそんな言葉が欲しいんじゃない。今まで俺がして来た事なんて知らないのに、どうしてそんな事が言えるんだよ。俺は汚いって自分でわかってる、だから今更其れを肯定されたくらいで傷ついたりなんかしない。…俺はそんな俺を丸ごと受け止めて欲しいんだ。
 俺の事をちゃんと知って欲しい。上辺だけの言葉なんて要らない、本当の事を言ってくれていい。その上で俺を受け止めて欲しい。大それた望みだってわかってる、自分勝手な望みだとも。
 優しい王子さんが俺のことを好きと言ってくれる、それだけで満足できたら良かったのに…。
 確かに、俺にも王子さんを美化している部分が無いとは言い切れないとは思う。恋愛なんて錯覚みたいな物なのかもしれない、時々そう思って悲しくなるときもある。だけど、俺はやっぱり王子さんが好きで、それなのに何処か満たされないのはきっと俺の我が儘が原因だって気付いてる。
 なぁ、俺の事汚れてないって言うなら…
「王子さんの手で、俺を汚してくれよ…」
 抱き締め合ったまま、聞こえない様な小さな声で俺は呟いた。
 アンタで俺を塗り潰してくれよ。アンタの愛で俺を壊してくれ…。そうしてもらって漸く、俺はアンタの背に爪を立てる事が出来る様になるんだ。
 俺を愛しているって言うなら、其れくらいやってくれ。でないと、俺は“愛”なんて信じられないんだ…。
 “好き”って気持ちなら俺にだってわかる。フェイレンやフェイロンに対する気持ちだ。リオンに対して感じた気持ち、王子さんに対して感じている気持ち。
 其の人の事を大事だと思う、信じ合える、守ってあげたい。そんな気持ちがフェイレンとフェイロンへの“好き”。
 其の人の事を思うと胸が苦しくなって泣きたくなる、優しくしてあげたい、優しくして欲しい、知らなかった自分に気付かされてどうしようもなくなる。そんな気持ちがリオンや王子さんへの“好き”。
 だけど、其れが“愛してる”ってなると途端にわからなくなる。なぁ、“愛”ってどういう物なんだよ。家族に対して感じる想いが“愛”って聞いた。でもそんな物、俺は知らない。知らないからわからない。わからないから信じられないんだ。
 “愛”なんて高尚な物じゃなくていいんだ、俺には“好き”で良い。
 俺は、“好き”、が良いんだ。
 だから、王子さん…



“どうか私を好きと言って”