なぁ、どうしてアンタは分ってくれないんだ。
 俺がこんなに必死になっているってのに。
 どうして抱き合うだけじゃ、触れ合うだけじゃ駄目なんだよ。
 良いじゃないか、羽の様な軽い接吻だけで。包み込む様に互いを抱き締め合うだけで。
 俺たちは互いの気持ちがわかっているんだから、大海を漂う木の葉の様な絆じゃないんだから、いったい何を不安になる事があるって言うんだよ。
 寧ろ、貪る様な口付けや、獣の様なあんな行為に及ぶ方が俺は不安になるんだ。
 肉欲なんて、性行為なんて、愛が無くたって、好きじゃなくたって出来るだろ?
 金の為に躯を売る奴を幾人も見て来た。自分から進んで売ってる奴もいれば、色んな理由から仕方なく売ってる奴だっていた。でも、皆何処か悲し気な顔をしてたのを覚えてる。
 勿論、そう言った感情を隠すのが上手い奴だっていた。だけど、完璧に隠せる奴なんて、居ない。何処か一瞬の憂いが滲む。
 そんな事をあのスラムに居た頃に気付いてしまって、其れからだ、俺が過剰な接触を…性行為に不信感を持つ様になったのは。あんな金で買える様な行為、本当にする必要があるのか?そりゃあ、しなければ子供は出来ないけど、其れ以外の目的でする必要があるのか?
 想いが通じ合っているなら、そんな事しなくたって良いじゃないか。愛を確かめるため?そんな行為で本当に愛を確かめる事なんて出来るのかよ。だって、好きじゃなくったって、初対面の相手にだって出来る様な事なんだぜ?
 しかも、俺たちは子供の出来ない男同士なのに。それなのにどうしてそんな事しなくちゃ行けないんだよ。しないと愛を確かめられない程、アンタは俺の想いを信じられない様な朧げな物だと思っているのか?もしそうなら、言ってくれ。俺はこの想いを証明する為だったらどんな事でもしてみせるから。
 アンタが望むなら、指だって落としてみせる。自分で喉をかっ切って死んでみせても良い。だから、俺の想いが嘘だなんて考えは捨ててくれ。俺はこんなにアンタの事を思っているのに。

 どうしてアンタはそんな悲し気な目で俺を見るんだよ。なぁ、俺は何か間違っているのか?もしそうなら、教えてくれよ、王子さん。愛って何なんだよ。

 こんな考えしか出来ない俺を哀れんでなんて欲しくない。
 もし、万が一王子さんが俺とやりたいだけだったなら、そう言ってくれ。そう言ってもらえたら、俺だって諦められる。俺が初めて信じた愛なんて物は、結局、幻想だったんだって。愛なんて所詮、性欲を美化しただけの、動物の本能を綺麗な言葉で誤摩化した物なんだって。

 なぁ、愛って本当にあるのか?

 唯、其れを教えて欲しい。
 俺のこのアンタに対する、泣きたくなる様な想いは本当なのか。それとも唯の錯覚なのか。
 その答えを知るのが怖くない訳じゃない。アンタに対する想いがもし偽りだったら、其れを想像するだけで血が凍る様な恐怖を味わう。でも、その答えを俺は、他の誰でもない、アンタの口から聞きたいんだ。
 だから、俺を愛してくれている、アンタが教えてくれよ。
 止めは、アンタに刺して貰いたいんだ…。




“純愛主義者の嘆き”