04.愛情入り毒林檎

「ロイー!」
 特にする事がなくてぶらぶらと辺りを散歩していた俺に、王子さんが駆け寄ってきた。
 其の手には林檎が二つ収まっている。
 王子さんは乱れた呼吸を整えると、俺に持っていた林檎を一つ差し出してこう言った。
「あのさ、此の林檎貰ったから一緒に食べようよ」
 そういえば、もうそろそろ小腹が空く頃で、俺は王子さんの言葉に甘える事にした。
「おっ、マジか? …真っ赤で甘そうだな」
 良い林檎だ、そう呟きながら俺は受け取った林檎を眺める。
 陽の光でキラキラと輝く林檎は、其の赤さと相まってどこか作り物めいて見えた。
 黙った侭林檎を見詰めていた俺に、王子さんから声がかけられた。
「ねぇ、もっと良い林檎にしてみせようか?」
 にこにこと微笑みながら王子さんは俺の眼を覗き込む。
 蒼い瞳が、手の中の林檎みたいにキラキラと輝いている。
「はぁ? どうやって…」
 いぶかしむ俺の手をとると、王子さんは俺の手に収まっている林檎へと口付けた。
「はい、僕の愛情がたっぷり入った特製林檎の完成」
「……そりゃあ、物凄ぇ毒林檎だな、王子さん」
 何をするのかと思っていれば、こんな阿呆な事だとは。
 俺は呆れた声で王子さんに答えた。
「でもロイは食べてくれるんでしょ?」
 そうだな、アンタの愛で死ぬんだったらいいかもな。
 でも、俺は素直に答えてやったりはしないぜ、王子さん。
「どうだかな。毒林檎なんだろ? 俺、死んじまうぜ?」
 にやりと笑いかけてやれば、王子さんはきょとんとした顔をする。
 でもそれも一瞬の事で、王子さんは素早く俺の唇掠め取ってから口を開いた。
「ロイは僕の愛で死んでくれるでしょ?」
 そう言って微笑む王子さんの手を取ると、俺も王子さんの手の中の林檎に口付ける。
 そして、王子さんに向かって微笑んでこう言ってやった。
「俺の愛で死んじまえ」
 其の言葉を聞くと、王子さんは今日一番の笑顔で笑った。
 そんな嬉しそうな表情すんなよ。
「…俺も狂ってるけど、王子さん、アンタも相当だぜ」
 俺たちはお互いに笑い合うと真っ赤な林檎を齧った。