05.まだ足りない

「ぅん……ふぁ…っ…」
 ロイの舌を絡めとりながら、僕はその細い身体を抱き締めた。
 ロイの身体細い、それは育った環境が関係しているんだろうけど、少しは体質に因る所もあると思う。
「…ぁ……はっ…」
 混じり合った唾液が溢れて互いの口元を汚しても、僕はロイを離そうとは思わなかった。
 こんなんじゃ足りないんだ。
 ロイをもっと感じたい、もっと近くに行きたい。
 ロイを僕で染め上げてしまいたい。
 そんな事を止め処なく思っていると、胸の辺りを軽く叩かれた。
 あぁ、ごめんよ、ロイ。苦しかったんだね。
 もう何回もこうしているのに、未だに息継ぎすら上手くできない君が愛おしい。
「…ぷはっ……っ!」
 ロイの熟れた赤い舌はてらてらと糸を引き、僕は其の糸が切れるのを名残惜しい気持ちで眺めた。
 絶え絶えに乱れた呼吸を整えるロイの髪を優しく撫でていると、自然と笑みが浮かんできた。
 何て愛おしい存在なんだろう。
 ロイ、ロイ、僕のロイ。
「ねぇ、ロイ」
「…なんだ、王子さん…」
 漸く息の整ってきたロイが僕を見上げて来る。
 其の金の眼に僕が映っている、それだけの事が嬉しく思える。
「あれじゃあ、まだ足りないよ…」
「は? おい、なに言って…んむっ……」
 意味が分らずいぶかしんでいたロイの口を、性急に塞ぐ。
 君の声も大好きだけど、今はもう少しこうしていたんだ。
 僕には君が全然足りてないんだ。
 僕の此の餓えを満たしてよ、ロイ。
 君だけが此の餓えから僕を救ってくれる。