07.所詮はボクのもの

 王子さんの指が器用に俺の髪を纏めていく。
 俺はその様子を鏡越しに眺めながら、王子さんが俺の髪に触れる感触に酔う。
 俺の指とは全然違う、白くて細い綺麗な指だ。
 服は既に着替え終えていて、俺は何時もの服ではなく王子さんと同じ服を着ている。
 髪を纏め終えた王子さんが銀糸の鬘を俺にかぶせて、俺たちの”儀式”の準備は終了した。
「終ったよ、ロイ」
 王子さんに声を掛けられると、俺は座っていた椅子から立ち上がって、後ろに居る王子さんと向き合う為に振り返る。
 同じ顔。
 鏡は俺の後ろにある筈なのに、まるで鏡を見ている気分になる。
 王子さんは二人っきりになると、俺にこうして変装をさせたがった。
 同じ顔、同じ格好をしているのに、俺たちは違うのだと実感したいんだ。
 俺と王子さんは、違うけど同じだった。
 愛情を信じられないくせに餓えていて、いつだって自分と同じ存在を求めてる。
 同一であって異質、それが俺たちなんだ。
 お互い無言の侭、両の掌を合わせて、離れない様に互いの指を絡ませ合う。
 額を合わせて王子さんの目を覗き込むと、王子さんも俺の目を覗き込んでいた。
 蒼い瞳に、金の眼をした”王子さん”が映っていた。
 俺なのに俺じゃない。
 きっと王子さんも俺の目に同じ物を見ているんだ。
 王子さんであって王子さんでない存在を。
「「好き」」
 俺たち二人の声が重なる。
「「君が好き、自分でも可笑しいぐらいに君の事ばかりが気になるんだ」」
 俺が王子さんの口調さえ真似てしまえば、声だって殆ど一緒の俺たち。
 互いの息が混じり合う程近くで囁き合えば、それは酷く甘い”儀式”の始まりだった。
「「此の狂おしい想いをどうすれば君に伝えられるのかな…」」
 重なった声は何処か現実感が無く、一層俺たちを此の非現実的な空気が呑込んでいく。
「「好きだよ」」
 そうだよ、アンタが好きだ。
 たとえ此の感情が。
「「僕は君が好き」」
 俺は王子さんが好き。
 酷い自己愛の結果だとしても。
「「君も僕が好き」」
 王子さんも俺が好き。
 それで良いじゃないか…。
「「僕は君を離さない」」
 俺たちはお互いに愛し合っているんだから。
 運命の悪戯だろうが、俺と王子さんは出会ってしまったんだ。
 きっと、離さないんじゃない。もう、離せないんだ。
「「所詮、君は僕の物…」」
 其の侭俺たちは唇を重ねた。
 舌の絡まり合う感覚に俺が眉を顰めれば、王子さんは更に舌を絡めて来る。
 ほら、同じ顔だって俺たちはこんなにも違う。
 王子さんは俺の物で、俺は王子さんの物。
 もう、それで良いじゃないか。
 何も考えたく無くて、俺は王子さんが与える刺激に意識を集中させた。