08.致死量

「君を好き過ぎて、怖いんだ…」
 王子さんの部屋で二人寛いでいると、突然王子さんがそんな事を言った。
「…何が恐いんだ?王子さん」
 寝台に寝転がっていた俺が起き上がって尋ねれば、王子さんは折角起き上がった俺に覆い被さり、俺を押し倒した。
 再び寝台に埋もれた俺は、伸し掛かっている王子さんの背を優しく撫でてやる。
 暫くそうしていると、王子さんは漸くぽつりと呟いた。
「僕の此の想いが、何時か君を殺してしまう気がするんだ」
 まるで毒の様に、首筋に顔を埋めた王子さんがそう続けたのを俺は聞いた。
 あぁ、アンタはそんな事を気にしていたのか。
「大丈夫だ、王子さん」
 宥める様に王子さんの背をぽんぽんと軽く叩いてやれば、王子さんは俺にしがみついてくる。
 なぁ、王子さん。そんな事、俺だって何時も思ってるさ。
 俺の想いで、アンタが腐り落ちてしまうんじゃないかって。
 行き過ぎた想いなんて毒と一緒だ、愛なんて綺麗な名前で覆われて、皆気付かないだけなんだ。
「それに、もしアンタの想いが毒だとしたって、俺はアンタに想われてるなら嬉しいぜ」
 小さな子供に言い聞かせる様に王子さんにそう言ってやる。
「ロイ……ありがとう…」
 ありがとうだなんて言わないでくれ、俺はアンタにそんな風に言われる人間じゃない。
 アンタみたいに相手を思いやってなんて、やれない奴なんだよ。
 俺の想いでアンタが死んでも良いと想ってるんだよ、俺は。
「王子さん、俺の事、もっと想ってくれよ」
 アンタの想いで俺が死ぬ程に。
「え?」
 そんな事言われると思っていなかった王子さんが驚いて顔を上げようとするのを、俺は両腕で頭を抱え込む事で押さえ付けた。
 今の俺の表情を見ないでくれ。
 きっと酷い顔をしているだろうから。
 あぁ、王子さん。
 アンタの想いは、未だ致死量には程遠いみたいだ…。
 早く、早く、アンタの想いで俺を殺してくれ。