10.歪な愛のカタチ 心地好い日差しの射し込む王子の部屋で、ロイは鼻歌を歌いながら小さな箱に手を延ばした。 飴色になった木製の箱を開ければ、其の中には日の光でキラキラと銀色の針が輝いている。 ロイは其の中の一本を手に取って陽に翳して見る。 眩しさに目を細めて視線をずらせば、ベッドで寝ている王子がいた。 そんな王子から視線を戻し、ロイは手に取った針に糸を通し始める。 白い木綿の糸を器用に針穴に通し終わると、ロイは其の一度針山に戻した。 そして、ベッドの上で未だに昼寝から起きない王子の顔を覗き込む。 気持ち良さそうに眠っている王子にロイは微笑むと、再び針箱の元に戻り先程糸を通した針を手に取った。 「………」 ロイはじっと其の針を見詰めると、おもむろに其の針を自分の小指に突き刺した。 ぷつ 皮膚を突き破った針が肉を掻き分けていく痛みにロイは顔を顰める。 しかし、顰めるものの、ロイはそのまま針を自分の指に押し込んでいく。 針が貫通すると、ロイは其の針を引っ張り指に糸を通す。 「 っ」 自分の指の肉を掻き分けた白い糸が、赤く染まっていくのをロイは黙って見ていた。 糸と肉の擦れる、聞こえもしない音が聞こえてきそうだった。 ずるずる、ずるずる どれ程の糸が赤く染まったのか、ロイは漸く白い方の端を切ると、指から抜けない様に其の端を魂に結ぶ。 小さな結び目であったが、指に空いた小さな穴を通れる程では無く。 ロイは其の結び目が指を通らない事を確認すると、赤くなった糸を指に絡めた。 そして眠っている王子の傍に行き、其の手を取ると、其の小指に自分の指から出ている糸の反対側の端を結びつけて、にっこりと酷く嬉しそうに笑った。 「……ん」 すると、眠っていた王子が小さく呻くと其の目蓋をゆっくりと開いていく。 「おはよう、王子さん」 ロイは何事もなかった様に、何時も通りの挨拶を王子にする。 王子もそれに寝起きで擦れた声で答えると、目を擦ろうとして自分の指に結ばれた糸に気付く。 「これは?」 王子がロイの方を見て尋ねると、ロイはにやりと笑ってこう答えた。 「赤い糸って奴だよ」 糸の結ばれた自分の小指を王子に見せる様に振りながら、ロイは何処か嬉しそうだった。 「それって運命の赤い糸って言う?」 「そう、それだよ」 それでロイはこんなに嬉しそうなのかと王子は納得しようとして、ロイの小指の異変に気付いた。 王子は自分の小指に視線を落とすと、もう一度確認の為ロイの小指を良く見る。 「……ロイ、ちょっと針を取ってくれないかな」 其の言葉にロイは仕舞った針を、再びあの小さな箱から取り出して王子さんへと手渡した。 「はいよ」 「ありがとう、ロイ」 針を受け取った王子はそう礼を言うと、小指の糸を一旦解き、其の端を針穴へと通し始める。 そして其の糸を針穴へ通し終えると、王子はまるでドアを開ける様に自然な動作で其の針を自分の指に貫通させた。 うめき声一つあげる事なく、王子はただ淡々と作業を進めていき。 自分の指に通した糸を、ロイと同じ様に抜けてしまわない様に結ぶと、くるくると指に絡める。 糸を絡め終えると、漸く王子は針と指を見る為に俯いていた顔を上げた。 そして、其の一連の作業を黙って見ていたロイをじっと見詰めると、王子は先程のロイと同じ笑みで微笑むと口を開いた。 「これでお揃いだね」 其の言葉に二人は破顔して、其の侭抱き締め合って口付けを交わした。 そう、それは歪んだ二人の、歪な愛の形。 終 |