17.破滅へ向かう二人

 自分でもつくづく思うよ、本当に碌でもない関係だって。
 お互いに依存し合って、傷を舐め合ってるだけの馬鹿みたいな俺達。
 そんなんだから一緒に居たって満たされる事なんて無いし、余計に傷が増えるだけなのに。そうだと分っていながら俺はテッドから離れられない。
 あの俺とは真逆の愚かな死神を手放す事が出来ない。
 人間なんかのどこに良い所があるって言うんだよ、テッド。
 あんな奴ら俺は大嫌いだ。自分の都合ばかりを人に押し付けて、自分に都合の悪い存在は排除しようとする。
 そんな奴らと一緒に居たいだなんて、テッドの事は好きだけど、其処は理解できない。
 人間なんて、関わらない方が良いってのに…。
 人に関わりたくなんか無いのに周りに人が群がって来る俺。
 人と関わりたいけど人に近づく事の出来ないテッド。
 …ホント、世の中って上手くいかないもんだな。需要と供給がまるで出来てないんだから。
 だけど、もうどうでも良いんだ、そんな事。
 だって今の俺にはテッドが居るんだから。
 俺が必要としているのはテッドだけ。テッドには俺だけが居れば良いんだ。
 だから、他の奴らなんか必要無いんだよ。
 一緒に居る事で真実満たされる事なんてないけど、直ぐに尽きる此の命。例え借初めの充足感だろうと其れで良いじゃないか。
 今此の時、俺が必要としている時に満たされないのなら、そんな物は要らない。
 裏切る存在なんて要らない。
 テッドは俺を裏切らない。時々苦しそうな顔をしても、俺から離れていったりしないし、俺を突き放したりしない。
「ねぇ、此の侭二人で世界を破滅させられないかな」
 俺の罰の紋章と、テッドのソウルイーターでさ。座った状態で後ろから抱き込んでそう言えば、テッドは泣きそうな顔をして、前に回した俺の手を握って呟く。
「なんでそんな事ばっかり言うんだよ、お前は…」
 俺はお前に人を好きになって貰いたいだけなのに。消え入りそうな声でテッドはそう言って俯いてしまう。
「………」
 そんなの無理だよ、テッド。俺はもう人に期待なんてしてないんだから。
もう俺は人に関心が無いんだよ。この戦争だって勝とうが負けようがどうでも良いと思っているぐらいなんだから。
 もし関心が有るとしたら、それは此の罰の紋章が誰に行くかって事ぐらいだ。
 俺は次にこいつに取り憑かれるのに相応しいのはスノウだと思っている。罰の紋章を継承した彼奴は絶対に悩んで苦しむだろう。死の恐怖に怯えてみっともなく生きていけば良い。
 そして、苦しんで、苦しんで、苦しんで、その末に惨めに死んでいけ。
 そうすれば俺も少しは気が晴れるだろう。
「じゃあ、俺たち二人の世界を破滅させようか」
 過程の未来を想像して少し気の晴れた俺は、先程却下された案を妥協してみた。
 俺はテッドと一緒だったら死んでも良いと思ってる。例え其れでスノウに此の紋章を押し付けられなくなったとしてもだ。
 …此れって、俺にしてみれば凄い熱烈な愛の告白なんだぜ。そこんとこ分ってるのかよ、テッド。
 その事に気付いているのか分らないがテッドは泣きそうな声で俺に言った。
「…そんな哀しい事ばっかり言うなよ……アノイア…」
 其れは縋る様な懇願を含んだ言葉で、俺の名前を呼んだ後、テッドの頬に一粒だけ雫が零れたのに気付いたけど、俺は気付かなかった振りをしてテッドを抱き締めた。
 こうやって良い方にも悪い方にも変化していけない俺達は、緩やかに、だけど確実に破滅に向かっていくんだろう。
 でも、其れすら今の俺には愛おしいんだ。
「テッド、俺と一緒に死んでくれよ…」
 返事の代わりに、テッドの押し殺したすすり泣きが聞こえた。