何も無い空間で、僕は羊水の中で誕生の時を待つ胎児の様に漂っている。 闇だけが存在する空間。その世界で僕は正に異物だった。 無い筈の僕がこうして存在できている理由。それは、きっと僕を包むこの温かな闇のおかげなのだろう。 この闇が何なのか僕には分からないが、常に微睡む意識の中で、この僕を包む闇だけは安全だと感じた。 何だろう、この温かさ、僕はこの感覚を何処かで…。 駄目だ、だんだん意識が……。 「吹雪」 優介が呆れた様に僕を呼び。手に持っていたタオルで水の滴る僕の髪を拭き始める。 「ねぇ、優介」 がしがしと頭をタオルで拭われながら、僕は彼に話しかける。 「なんだい、この無精者」 向き合った状態で頭を拭かれている僕は、その侭目の前の彼に抱きついた。 「……吹雪、拭きづらい」 そう言いながらも彼が抱きしめ返してくれるのを、僕は知っている。 「ずっと、こうやって過ごせたらいいとは思わないかい、優介」 彼の肩に顔を埋めてそう言えば、彼は呆れた様に溜め息を一つ吐いてこう言った。 「…僕にずっと君の面倒を見ろっていうのかい?」 そう言って優介の目を見詰めれば、彼は少し黙った後、薄く頬を染めて呟く。 「……まぁ、吹雪がどうしてもっていうなら見てやっても良いよ」 ふいっと目を逸らした彼の耳が赤く染まっているのに気付いて、僕は嬉しくなって笑った。 |