仄暗い、宙に浮かぶ鏡以外何も無い空間に、俺は降り立った。
普段は十代を罵る者たちの映る鏡も、今は何も映す事無く、ただ暗い闇を映し浮かぶばかりだ。
「十代…」
そんな空間にたった独り、力なく座り込んだ己の半身へと声をかけてみれば、やはりいつも通り何の返答も得る事は出来なかった。
十代は全てに絶望している。
世界に、精霊に、仲間に、そしてそれらを護れなかった自分自身に。
其れ故に、全てを、自分を含む全てを滅ぼす為に俺を生み出したのだ。
だが、十代。全てを拒絶して此の暗闇に蹲るお前は気付いていないのだろうな。
お前を想う存在が、確かに存在している事に。
今日俺が消したジムとかいう奴も、お前の事を友人として心から思っていたぞ。
逃げ出した男も再び俺の前に立ち向かって来るだろう、十代、お前を取り戻す為に。
そして…、俺もお前の事を常に想っている。
十代の直ぐ傍に膝を付き、その顔を見詰める。
だが、何の反応もない十代に俺はその片手を掴み、己の手と遭わせた。
不思議な感覚のする温度。温かくもあり、冷たくもある。
だが、こうやって手を合わせられる俺たちは、確かに別の存在なのだ。
たとえ、それが此の空間でしか出来ないとしても…。
それでも、俺と十代は異なる存在なのだ。
そうでなければ、何故俺は……。


こんなにも十代の事を愛しく想えると言うのだ。




05  繋いだ手の温度