自分を罵る鏡以外何もない暗闇の中に、十代は一人佇んでいる。
 皆が自分の下を去ってから、自分の中に覇王という存在が生まれてから、ずっと十代はこの闇の中で過ごしてきた。
 時折やって来てくれる覇王以外、誰も居ない世界。
 だが、十代にとってそれはこの空間以外でも同じ事だった。この自分の心の外に出て行った所で、誰も自分の事など必要としていないのだから。
 今、十代の事を必要としてくれているのは覇王だけだった。少なくとも十代はそう信じている。
 覇王だけは、自分を生み出した十代を…物質世界で活動する為に必要な十代の体を必要としてくれる。それだけでも今の十代は嬉しかった。誰も自分を必要としてくれない世界で、唯一自分の存在を望んでくれる存在。その存在である覇王を、十代はいつしか好きになっていた。
 十代の心の機微を覇王はいつだって察してくれた。そう、十代が覇王を好いているという事も、覇王は直ぐに気付いてくれた。そして、言ってくれたのだ「自分も十代の事を愛している」と。
 けれど、十代は考える。覇王は本当に自分の事を好きなのかと。
 自分には覇王しか居ない、それは確認するまでもない事実だ。だが、覇王はどうだ。覇王自身は必要としていないのかもしれないが、何万という兵士や、心底覇王に心酔している五人の部下がいる。それに、覇王は自分と違って仲間などを必要として無い。己自身さえあれば生きていける程に体も精神も強いのだ。
 だけど自分は違った。今の十代は覇王が居なければ生きていけない。一人は淋しすぎる、覇王が居ない世界は十代には辛すぎる。
 今は何故かは分からないが覇王も十代の事を好きと言ってくれている。でも、それが何時迄続くか十代には分からない。この関係は覇王が自分を好きだと言ってくれているから続いているに過ぎないのだ。だから、自分が幾ら望んだ所で、覇王が自分の事を嫌になったら其所で仕舞なのだ。
 それなのに、時折やってくる覇王の腕は優しく十代を抱くのだ。十代のこんな不安など知らないとでもいうかの様に。何時もはどんな些細な感情の変化にも直ぐに気付いてくれるの覇王が、この不安にだけは何も言ってくれない。その事実が十代を更に不安にさせた。
「本当に好きじゃないなら、優しくなんてしないでくれ…」
 声が暗闇に溶ける。覇王は未だ来そうにない。



“私には貴方だけなんです。でも、貴方は?” Side 十代