特にやる事もない獄中生活。暇を持て余したプーチンは、自分のベッドの上に寝そべり、シューズカタログを読みふける同室のキレネンコにコミニュケーションを試みる事にした。実は既に何度か試みてはいる事である。

「ねえねえ、キレネンコさんはどうして此処に入ったんですかー?」
「ああ」
「……キレネンコさん?」
「ああ」
「聞いてます?」
「ああ」
「今日のご飯なんでしょーねー」
「ああ」
「キレネンコさーん」
「ああ」

 こんな風にすげ無く返されてしまうのだが(相手にされてないともいう)。

(暇だ)

 キレネンコに相手をしてもらう事を諦め、プーチンは小さく溜め息を吐いて自分もベッドに寝転んだ。暫くゴロゴロしてみるが、こんな時に眠気も起こらず暇つぶしにコサックでも躍ってみる気になる。実際やり始めたらキレネンコが横目でプーチンを確認した。10分ほど躍り続けていたら睨まれた。

「うざってえ」
「すんません」

 ドスの利いた声で呟かれ、プーチンは一、二もなく謝った。此れでもキレネンコはプーチンに対して寛大な方である。看守であったなら即座に二つ折りにされていたであろう。

「しかしテメエも懲りねえやつだな」
「はぁ」

 キレネンコが呆れた様に呟くのを聞きながら、プーチンは気の乗らないような返事を返す。彼に取っては目の前の今が大切なのであり、過去は振り返らない主義なのだ。というより今だけが大切なのであってそれ以外は別にどうだって構わない。(故に彼は投獄された)

「そんなに暇だってんなら相手をしてやらん事もない」
「ぅえ?」

 こんな反応を返された事は今までに一度もなく、一瞬何を言われているのか反応の遅れたプーチンだった。

「オレはテメエの事、そこそこ気に入ってんだぜ」

 カタログを置いて自分の眼前で見下ろし挑発的に笑みを浮かべるキレネンコに、プーチンは少し早まったかも知れない、と今更ながらに少しだけ後悔した。

「相手してやるんだ、感謝しろよ」

 悪い笑みを浮かべたままの彼に押し倒されて、すぐ目の前までキレネンコの顔が迫って来る。

 ちょ、こういうのを望んだ訳じゃないんだけどな!
 ていうかボク、マジでヤバくね?!

 処理能力が追いつかず硬く目を閉じた所で、入り口のドアの覗き穴がシャッと音を立てて開く。

「!」
「……何見てんだよ」

 様子を覗いた看守が固まっているのが扉越しでもはっきりと判った。物凄い形相で振り返ったキレネンコに、看守が震え上がる。
 完全に気のそれたキレネンコが看守を殴る打撲音を背後に聞きながら、プーチンは思う。

 あれ、ボク、何か違う意味で、物凄く、ヤバくね?

 此れからの監獄生活は、ある意味とてもスリリングなものになりそうだった。






いいと思うんだけどなあ。。。
誰か仲間いらさりませぬか。。。