「兄貴〜…」 障子の開かれる音と共に一つ下の弟に呼ばれ、正守は顔を上げる。 「……なんだ良守、その顔は……」 半分ほど開かれた障子に手を掛けたまま固まっている良守を見て、正守も思わず眉を寄せた。物凄く嫌そうな顔をした弟と目が合えば、なんだか気まずそうに目を反らされる。 「……わりィ、着替え中だったのか」 謝られ、正守は自分を見下ろした。なるほど、確かに自分は浴衣を羽織ろうしたところで顔を上げたのだ。きちんと身につけているのはボクサーパンツのみ、確かに見てしまった方からすれば気まずいかもしれない。 「まあ気にするな、それで何か用があったんじゃないのか」 良守に少々嫌われている自覚のある正守が僅かに苦笑しつつも尋ねると、 「あー、じじいが呼んでるから着替えたら行けよ」 「わかった」 「じゃ」 ぶっきらぼうに用件だけを伝え、返事を返すのと同時に障子を締められた。 何もそんなに嫌わなくてもいいじゃないか。小さい頃は自分の後を着いて来たのにと、苦い笑みを深くしながら袖を通すのだった。 「父さん、オレのパンツさー」 台所で夕飯の支度をしている修史に、眉を寄せた良守が切り出す。 「え、パンツがどうかした?」 「なんでボクサーパンツなの?」 真っ正面からきりだせば、修史は眼鏡のむこうでにっこり笑っていう。 「正守があれがいいって言ってたから、良守も同じでいいかなって思ってね」 どうしたの? 思わず修史が尋ねてしまうほど嫌そうな顔をして、良守はテーブルに突っ伏した。 「トランクスとかあるだろ」 「正守がなんか中で寄っちゃって気持ち悪いって言ってたから」 中学生くらいのときかな? そういう修史は手を動かしながらクレームがついたんだと笑う。 「ブリーフの方がいいなら買ってくるよ?」 「ブリーフはちょっと………」 このくらいの年になるとちょっと複雑なようで、良守もブリーフに少々抵抗を覚えるようだ。 「じゃあお義父さんと同じ褌にするかい?」 ちょっと困ったように修史に尋ねられ、良守は引きつり固まる。 じじいと同じ?! 冗談じゃねえ! 間抜けに口を開いたまま大きく揺れて、良守はまっすぐ前へと倒れ込む。 ゴッ!! 「…………いまのまんまでいい」 良守はものすごい音を立ててテーブルに額を打ち付けたのだった。 |