状況を少し整理しよう。 なんだかんだ言いつつ何時もみたいにちょっと遅くまでデュエルしていて、部屋が割と近くだからと戻るのが遅れて、結局ずるずると話し込んでしまって、気がついてみればこの状況。 あれ、あまり状況改善に役立ちそうにないな。 何時もより少し亮が近いかなと思わなくもなかったけど、でもなんで僕は今、彼に押し倒されているのかな。なんで亮はこんなに泣き出しそうに顔を歪めているの。 「吹雪、お前が好きだ」 ああ、確かにこの状況で言われたら逃げる事はできないね。 でも僕の言葉を待たないまま、コトに及ぼうとするのは戴けないと思うんだ。だって、僕は、まだ何も言ってないよ。それとも君は僕の答えなんて必要はないというの? 悔しい事に手首をがっちりと掴まれてしまったら僕にはそれを振り解くほどの力がない。純粋な力の拮抗だとどうしても亮に劣ってしまう。これが体格の差なのか。本当に悔しいな、どうしてくれよう。ああ、どうにかされるのは寧ろ僕の方か。 両腕をスカーフで束ね(彼がスカーフを使わない事を僕は知っている。くそう、計画的犯行かい)僕の動きを制限した亮は、僕の制服をはだけさせて胸に唇を寄せる。僕の制止も意に介さずといった様子で、何度も何度も柔らかくてほんの少しかさついた、温度の低い唇が僕のお世辞にも厚いとは言い難い胸板に落とされる。羽根のように軽い口づけは、ひとつも跡を残さずに、このまま何もなかったことにできるのではないかという淡く脆い期待を抱かせる。けど、その期待を裏切るように、胸を探る亮の指先は冷たかった。 「吹雪、吹雪」 僕の名前を紡ぐ君の声は優しく、本気の覚悟と悔恨を孕んでいて、それでも僕はどうかと縋る。こんなに切なく僕を呼ぶ彼なんて、知らない。いやだ、どうか僕を名を呼ばないで。 「すまない、吹雪、本当にすまない。吹雪」 もう、泣きたいのは僕の方なのに、なんで君がそんなに泣きそうなんだい。無体をされているのは僕なんだよ! 胸が締め付けられるように苦しくて切なくて、それでも泣き出せす事もできずに亮を見つめたら、がっちり亮と視線が絡む。一瞬、泣き出しそうに歪んだ後、視線が外された。 なんでそんなに泣きそうなんだよ、泣きたいのは僕なのに! そんな顔されたら泣けないじゃないか! 指先が僕自身を辿って、たどたどしく動いて僕を追い上げていく。快感を与えようとする明確な意図を感じて、また泣きたくなった。亮の口は未だ懺悔と愛を紡いでいる。 どうしてただ乱暴にしてくれないの。そうすれば君を恨む事ができたのに! どうして君が愛を紡ぐ度にこんなに苦しく締め付けられなくちゃならないんだい。 どうしよう、どうしよう、感じたくなんてないのに、気持ちよくなんてなりたくないのに。体が反応を返してしまうのが恨めしい。どうして、いやだ、僕を暴かないで! ひきつったような悲鳴と共に白濁した体液を吐き出し果てた僕に、それでも亮は愛を語るんだ。 もういやだ、やめてよ、亮、ねえ。 僕の泣き言なんて、やっぱり君は聞いてくれなくて、不器用な手つきでサイドテーブルから小さなケース(何に使うのか分かりたくないけど分かってしまった!)を取り出して、僕の脚を左右に割り開く。絶頂を迎えて間もない躰は気だるく自由が利かなかったけれど、それでも僕はもがく。やめてくれ! 僕だって年頃の男子だ、知識だってある。君がどうしたいのか、何をしようとしているのかくらい想像がつく。 暴れる僕の大した事ない抵抗は、想像以上にあっさり押さえ込まれ、クリーム(軟膏?)をたっぷりと付けたと思われる指が僕の尻の窄まりを撫でていたと思ったら、信じられない痛みが背筋を駆け抜けた。痛みと共に微かな異物感を感じて泣き事を漏らす。拒絶の言の内に、明らかな泣きが含まれたのに、亮はかつてない程の動揺を見せた。こんな状況でなければ弄ってやるのに、僕の方にも全く、いっそ笑えるくらい余裕もなにもあったもんではない。 普通に生きてたらこんな痛みと縁なんてなかっただろうなんて、そんな風に思うくらい半端ない。何でこんな事するの、分かっていても口にしてしまう、耐え難い、泣き言を言いながら、亮はこの後も望んでいるのだと改めて意識して、全力で抵抗した(今までが全力でなかった訳ではないけれど、亮を、都合のいい話だけど、傷つけたくないと流されていたんだろうね、きっと)。 亮もここで引くわけにも行かず(僕としては是が非でも引いて欲しかった)、押さえ込んで抜けないように、抜かないように改めて深く入れられて。漸く痛みに慣れてきたくらいに指は動き出し、更に穿たれた指が増やされた時は僕はまた痛みに身悶えた。 亮、頼むから謝らないでくれ、殴り倒したくなる。謝るくらいなら今すぐ止めろ。こんな場所の痛みのやり過ごし方なんて僕は知らないから、申し訳なさと後悔と、もう後には引けない覚悟のようなものの入り交じった亮の顔をただ睨みつけてやる事しかできなかった。 内側を蹂躙していた指が漸く引き抜かれたと思った直後、僕は文字通り声にできない痛みと言うものを初めて体験した。痛みに声が詰まって悲鳴も上げられない、それどころか息をする事すら困難な、形容しがたい鋭い痛み。内側を割り開かれる、引き裂かれるような、実際引き裂かれていると錯覚するような。目を閉じることができない。声を上げる事も、息をする事も、泣く事もできない。いっそ殺してくれと思ってしまう程の。大げさでも何でもなくて、入れられたときは心底そう思った。 流石の亮もあまりの痛みに声も出ない、そんな様子の僕に鞭打つほど飛んではいなかったみたい。大丈夫かとは問われなかったけど(聞かれたら心情的にはそんな訳あるかと答えたかった)心配そうに何度も何度も僕の名前を呼んで、額に張り付いた前髪を避けたり、髪を撫でつけたりしてどうにか気を紛らわしてくれようとしたみたい。 少しだけ酷い痛みに慣れてきたら、今度はじわりと涙が滲んできた。見開いた目が乾いたのか、それとも痛覚に漸く涙腺が追いついたのか。亮が同意無くこんな愚行(とんだ愚行だよね!)に及んだのが少なくとも半分を占めているのは間違いないのだけど。まだ零れてはいなかったけれど、滲んだ視界で両手の戒めを解くように要求すると、亮は戸惑ったように僕を見てからスカーフを解いた。 「赤くなってる」 「……それはすまない」 ここは謝るんだ。なんだか釈然としないものを感じながらも、僕は亮を抱き寄せた。何とも言えない声を上げる亮を低い声で黙らせる。よろしい。正直、何かに縋り付いていないと意識が飛びそうだっていうのは本当の話。ここまで来てしまったんだんから、もうどうとでもなれって気分だった。この酷い男は今すぐ悔い改める気が全くないんだからね。それなら君のしたいようにすればいいよと提示して、僕は亮に縋り付く腕に力を込めた。 まあ此のあとすぐに後悔する事になるんだけど。 結論から言うと、凄い惨状になった。結合部からは案の定血が出てたし、僕も力一杯亮の背中に爪を立ててしまったから背中も血みどろだ。叫び過ぎで(あれを喘ぐとは言わないよ)すっかり枯れてしまって声は酷い有様だし。すっかりくたびれてしまった僕を、自分だって背中が痛いだろうにそれでも申し訳なさそうに気遣ってくる亮に僕は溜め息を吐いた。 こんな風に抱かれたら、普通もう顔も見たくなくなるとか、そういう風になるものだと思っていたのだけど。実際きっとそういうものだと思うのだけど。ここまでされて恨み言位しか思いつかないなんて、僕も大概どうかしてる。癪だなと思いながら、亮に意気地の悪い事を言い募って、それから言ってやった。 「どうやら僕も亮が好きみたいなんだよね」 これ位は許されると思うんだ。 |