※鬱坊テッド甦り設定の話です

 いつも外にいるはずの人たちが室内にいて、最初は少しだけ不思議だった。外は晴れてていい天気なのに、なんで? 尋ねてみてもみんな苦笑いするばかりではっきりと教えてはくれなくて。
 首を傾げつつも通り抜けようと一歩踏み出せば、どうしても目の止まる所に。案外、原因は分かりやすかった。
 過日、本拠地ことツァオティエン城にトランの英雄ことエデル・マクドールさんとその親友のテッドさんを招いた。結構大きな図書館がある事を知ると、本の虫らしいお二人から数日の滞在を求められ、快く受け入れたのだ。その二人が、図書館の近くの木陰で二人並んで腰を下ろして本を読みふけっていた。
 それでなくとも彼の人たちはとんでもなく人目を集めるし、本人にその気がなくとも凄い存在感を持って目に飛び込んでくる。そういう質の人たちなのは嫌でも分かる。加えて二人の現在地が賭博場方面の出入り口から直線上にいるので、一歩野外に出れば目に入る。
 しかも何となく声を掛け辛いというか、近寄りがたいというか……
 いつも外にいるメンバーがどうにも居心地の悪さを覚えて、屋内に批難してる気持ちが痛いくらいによく分かった。
 なんでこんなにいい雰囲気なんだろ……
 そんなに頻繁に言葉を交わしてる訳じゃないし、エデルさんもテッドさんもそれぞれ別の本を読んでる。ぴったりくっついてる訳でもなく、どっちかって言えば同じ木の根元に腰を降ろしてるって感じだし。
 腑に落ちずとも何となく、やっぱり僕も雰囲気に呑まれてどうにもあの二人の前を通り過ぎるのは遠慮したかったので、僕が大人しく来た道を引き返したのは正午のこと。

 午後もしばらくして。シュウに課題として出された本を借りに図書館に向かえば、図書館の影から向こう側を覗き込むようにしてメグ、ビッキー、テンガアール、ニナが固まっているのを発見した。
「何やってるの?」
 不思議に思って声をかけてみれば、メグが人差し指を口に当てて「しー!」と静かにするように促してくる。首をひねりつつ、少女達と同じようにして向こう側を覗いてみれば、相変わらずテッドさんとエデルさんがいて。
 変化があったのは、エデルさんがテッドさんの肩に凭れ掛かるようにして寝息を立てている事だった。
 いい昼寝日和だから睡魔の誘惑に勝てなかったんだろうなあ。
 思わず明後日の方向に思考が飛んだ。
「エデルさんが寝てるね。それで、何やってるの?」
 また怒られてはたまらないので、小声で伺い立ててみる。答えてくれたのはニナで
「なーんか、すっごくいい雰囲気で」
 午前からあんな雰囲気だった気がしなくもないけど。
「お二人とも前々から仲がいいのは知ってましたけど、なんかですね、今までの非にならないくらい」
 二人の世界?
 何がそんなに嬉しいのかビッキーがニコニコと笑いながら言ってくる。
「二人とも見目いいからねー」
 妙なテンションになっているテンガアールがのたまった。
「時々テッドさんがエデルさんの髪を撫でるんですよ〜」
 ビッキーの台詞にお前ら一体何時から此処で覗き見やってんですかと聞きたくなった。けど、そんな蛮勇は生憎持ち合わせていない。女の子はある意味神秘だ。
 なんだかなあと思って四人をまじまじと見つめてから、再び読書中の二人(片方は夢の中だけれど)に視線を戻す。
 テッドさんはテッドさんで気にもしないように本を読んでいて、その向かって右肩に凭れるようにしてエデルさんが眠っていた。午前中最後に見た姿から横にずり落ちたらあんな体勢になるかも知れない。ちょっと寝にくそうだと思う。
 眠っているエデルさんはゆっくりとずり落ちているらしく、何気ない仕草でまるでそうするのが当然のように、テッドさんがエデルさんの肩に手を添えて少しだけ押し戻す。そしてずり落ちないのを確認したあと、満足そうな笑みを浮かべてからエデルさんの頭をよしよしと二度ほど撫でて読書を再開した。
 ……なんだろう、今なら砂でも吐けそうな気がする。
「………で?」
 三度少女たちに目をやって尋ねれば、メグが可愛らしく小首を傾げて
「眼福?」
 僕には理解できそうにない世界だと思った。
「エデル、起きたか?」
 テッドさんの声にはっとして視線を戻すと、まだまだ眠いのか目を擦りながら小さく唸って、エデルが体を起こした所だった。
「ん」
「眠そうだな」
 テッドさんが苦笑して呟いた。そんなに大きな声での会話ではなかったけれど、それなりに聞こえてくるモノらしい。
 エデルさんが小さく頷いて肯定すると、テッドさんは読んでいた本にしおりを挟んで横に置く。
「もう少し寝るか?」
「ん」
 眠そうに、それでも肯定してエデルさんはテッドさんが軽く叩いて示した場所に頭を据える。彼の、膝の上に。一瞬だけ見えた英雄と呼ばれる彼は凄く優しい笑みを浮かべていて。その頭を撫でる親友と呼ばれる彼も、とても優しい顔をしていて。
「……………」
 何かコメントをする気力もなく、僕はその場を後にした。
 少女たちが妙にテンションをあげてるのに気付きたくなかった……。

 こんなに当てられた気分になるのは何故だろう…………orz