ああ、お前に伝えたい事があるのに、もう碌に体を動かす事さえままならない。
 言いたい事は多すぎて、伝えたい事が多すぎて、逆に何が言いたいのか全然分からないなんて、本当にありえない。口をついて出てくるのは懺悔の言葉ばかりで、ああ、お前にそんな顔をさせたい訳じゃないんだ。
 泣いている訳じゃないけど、確かに、お前は俺の為に涙を流してくれている。それが心苦しいはずなのに、こんなにも嬉しいなんて、本当、どうかしてる。
 生を終えて尚、紋章によって生かされ続けていた体が、役目を終えて土に還っていくのがわかる。意思を持ったまま土に還るのなんて、普通に生きたらありえない。それがこんなに恐ろしいだなんて、誰が知るだろうか。この恐怖を悟られない為に、ごまかす為に、俺は言葉を紡ぐ。
 どうにか伸ばした手で頬に触れれば、指先から砂へと変わっていって、泣きたくなった。
 死にたくないなんて、言えない。でも、一番苦しいのは、お前を置いて逝く事か。
 目を閉じれば、きっと意識は此処で途絶えることになる。確信めいたものを抱いて、俺は自分を見下ろす一対の眸を見た。揺れる黒曜の瞳に、情けなく歪んだ俺の顔が映っている。

 伝えたい事があるんだ

 そう紡いだはずなのに、もう、声にはならなくて。
 もう二度と伝える事ができないのか。
 せめて、伝わればいいと願って言葉を紡いだ。
 紡ぎ終わるのと同じに、俺の意識も、宙に溶けた。
 お前の泣き出しそうに歪んだ貌が、精一杯の笑みを浮かべていた。