ひさしぶりに酷く懐かしい夢を見た。


星霜、雪下、君へ


夢を見た。
まだ三人でずっと一緒にいられると思っていたあの頃。
俺たちが道を違えるよりも前の話。
それから少年部隊に入って、めまぐるしく状況が変わっていって。
そしてもう、僕たちの道は重ならなかった。
俺は俺だけの軍師を抱え、俺という旗の元に、俺たちの軍を抱え。
お前はお前の信念の元に、祖国の為に軍を携え、王の名の下に俺の前に立ちふさがった。
運命とか宿命とか、そんな言葉で一括りになんてされたくはなかった。
そんな日々の中で俺は姉を失って、そして結局お前も喪って。
仲間の最後の一人が潰えるまで、俺は俺が造った国の為に生きた。
共に闘った仲間を喪った事で、俺を国繋ぎ止めるものはなくなったのだ。
そして、俺は俺の為だけに今、生きている。


「…寒いと思ったら、雪か」
誰も聞いていないのなんて知っている。だって此処には俺一人しか居ないのだから。
寝覚めは最悪で、どうしてこういう日に限って、百年近くも見ていなかったあの頃の夢を見るのだろう。
もう昔の事過ぎて、声も、顔も、思い出す事はできなくなっているのに。その存在だけが、いつまでも俺の中にいつまでも鮮やかに残っている。
扉を開けて、半身を出せば、布地に覆われていない顔面や手に刺す様な寒さに息も凍りそうだった。吐き出す息は白く、雪は音もなく静かに峠の小屋を白く染めていく。
外に薪を取りに出ただけで、芯から冷えてしまったって、正直参った。昨日の残りのスープを暖炉に掛けて、温め直しながら俺自身も暖をとった。
温めたスープを啜りながら、酒量の残りはどれだけあったかとか、何をやらなくちゃいけないだとか、わざと口に出して言ってみたりする。出なければ、きっと俺は言葉を忘れてしまうから。
ワインを一本携えて、やや厚手の上着を着込んで俺は出かける。
向かう先は決まっている。
もう、風化してしまって残ってはいないけれど、俺たちが約束を交わしたあの場所。
埋もれていたそれの、俺は上に積もった雪を払い落とす。
風化して、刻まれた文字も薄れ、角もとれてしまったけれど、此処に最愛の友が眠っている。
俺は惜しげもなくその墓標にワインをかけた。あまり上等な代物ではないけれど、コイツならばきっと許してくれる筈だ。
「来たよ」
此の時期、此の場所に、お前の為に。ずっとずっと、欠かした事は殆どない。自分でもよく続くなと思わないでもないけれど、お前の為に出来る事なんて、他に思いつかないから。
俺も惰性で生きている様なものだから、代わり映えする様な事もなくて、話す事もないけれど。
お前の傍にいると、なんだか少し、安らぐ様な気がする。
右手のこの紋章を手放せば、俺は土に還る事が出来るのだろうか。
それとも、もう、土に還る事すらできないのかな。
此の場所も、世界も、俺の命すら、雪が白く染め上げてしまえばいいのに。
「久しぶりに、シュウたちの墓参りにも行って来ようか。もう随分行っていない気もするよ」
お前はいま、何処にいるんだろうな。
死後の世界?
この場所はもう寒くて此処百年くらい花なんて咲いていないけど、そっちは花は咲いてる?
そこにナナミはいる?
シュウやみんなもいるのかな。
俺も何時かそっちにいけるのかな。
「お前の声も、顔も、もう思い出せないけど」
それはお前に限った話でもないのだけれど。
「ジョウイ、今でもお前を愛してるよ」
誰も俺を必要としなくなったら、俺もそっちへ行くから。
そしたら、どうか、何も言わずに抱き締めてください。
夢見る事くらい、許されてもいいはずだから。