「王子さん、飴舐めてる?」
 ベッドを占拠し腹這いになって本を読んでいたロイが、顔を上げ首だけで王子を振り返る。声を掛けられて、テーブルに肘を付きながら本を読んでいた王子も顔を上げる。
「うん。けど、なんで?」
「甘い匂いしてるからさ」
 香りが気になったのだとロイが言うと、王子はちょっと考える。
「ロイも食べる?」
「おう」
 そう答えながらも答えを貰ってしまっていたので、ロイの視線は既に本へと戻ってしまっている。ロイの答えを聞いて、王子は腰を上げる。
「ロイ」
「あ?」
 上から声がして顔を上げれば自分とよく作りの似た顔が降りてきて、ロイの思考が一瞬飛んだ。
 ちょっとマテ、いま何された……?
 ばっちり固まってしまったロイを見て、王子はにこりと笑って尋ねる。
「おいしいでしょ?」
 そう言う顔には僅かな悪意すらも感じられず、単純にロイの感想を待っているようだった。
「お、おおお王子さん?!」
 どんどん顔に血が上ってくるのが分かるが、ロイには王子の真意が分からない。赤くなるロイをまじまじと眺める王子は、にこっと笑って宣った。
「ロイ、真っ赤だよ。どうしたの?」
 留めに指摘され、ロイは一気に湯気でも吹くのではないかという程赤くなる。
「〜〜〜っ!!」
「わっ! ロイっ?」
 そこからのロイは素早かった。まるで真神行法の紋章を宿しているのではないかという程の速さだった。王子を押しのけて転がるように部屋を後にする。王子が声を掛けた時には既に音を立ててドアが閉まった所だった。
「……えぇー……?」
 なにが起きたのか理解するまでに少々要した王子が、何がなんだか分からないといったふうに呟いた。


「あれ、ロイ君、どうしたのー」
 真っ赤になっちゃってーと脳天気に呼び止めたのは、女王騎士で只今暇を持て余していたカイルである。怒ったような何とも言えない表情のロイは勢いよく振り返り、何かを訴えようとする、が。
「っ……!」
言葉にならないらしく、口をパクパクさせる。
 まるで金魚のようだなぁ、自称不良女王騎士は呑気にそんな事を考えた。
「っなんなんだっアイツはっ!!」
 長い間の後、声を振り絞るように漸くロイが叫ぶ。
「何かあった?」
 十中八九王子絡みであることを確信しつつ、カイルは尋ねる。ロイのアイツは大抵が王子であることをカイルは知っているのだ。(お熱いことでとか思っても口にはしないけれど)
 尋ねれば、ロイは両手で顔を覆う。
「王子さんに飴を口移しされた……」
 どんどん語尾が小さくなっていき、仕舞には顔が俯きうなだれる。
「……」
 カイルは満面の笑みである。眉がへたれてはいるけれども。
「ロイ君も王子の被害にあったのかぁー」
そのままの表情で、カイルはわしゃわしゃと頭を掻いた。
「…………も?」
 怪訝そうに言い、ロイは顔をあげる。
「あれは王子の癖っていうか、うーん……寧ろアレが普通だと思ってるんじゃないかと疑ってるんだよねー」
 さらっと言ったカイルに、ロイは突っ込む。
「ちょっと待てっ!」
 アレが普通? アレが普通!? 頭の中でぐるぐると疑問が回りだす。
「ぜってー間違ってる……」
 どうして誰も教えないのかと問えば、
「だって陛下と閣下が」
 最後までカイルはいわなかったけれど、ロイは眉を寄せる。親(しかも女王夫妻だ)がやってれば口も出せまい。
「………教えてやれよ………」
「……………」
 力ないロイの呟きにカイルは相変わらずの困った笑みを浮かべただけだった。
 その後ロイの説得(?)により被害は少なくなったとかならないとか。

(落ちないままに終わるorz)