それは気まぐれに見つけた手負いの獣だった。殺してしまってもかったが、凛と澄ました瞳に並々ならぬ憎悪とも怒りともつかぬ感情を湛えていたのに興味を抱いた。 生かしておけば、きっと此れは眈々とオレの首を狙うだろう。それもまた一興。飽きれば殺してしまえばいいのだから。 単に面白い、それだけを思ってオレはこの獣を拾い上げたのだ。 決して懐きはしなかったが、此れはなかなかどうして従順である振りをした。爛々と輝かせる瞳の色は衰えず、牙を尖らせることを忘れるでもない。その癖手柄を見せては服従するように見せるのだ。 全くどうして面白いではないか。 目をかければそれだけ、奴は従順である振りをする。それが楽しくもあり、つい手をかけてしまう事を繰り返した。 いつの間にか随分と執着したものだと、自覚した時には大概、既に遅くなっているものだ。 此れが何を望み、手にする為に画策しているかも、総て理解した上で許容した。以前のオレであったら考えられぬ事であると、オレですら思うのだから人とは変わるものなのだと思わざるを得ない。 今お前が何を望み、何を成そうとしているか、オレが知っていることにお前は感づいているか。どちらでも構うものか、果たしてオレはその策に乗ろう。 オレの総てを奪い、喰らい尽くすがいい。オレはお前の糧となり、肉となり、血となってやろう。 お前は何処までも孤高であり、貪欲な獣で在り続けねばならぬ。慣れ合う事など赦さん。 その爪で友を裂き、その牙で総てを喰らい尽くせ。己が望みのまに、この世すらも手に掛けろ。 お前は何処までも、孤独な獣であるのが似合う。 … |