ずっと大好きだった。 ずっと一緒にいられるのだと思っていた。 君の為だけに、全てを捨てられる覚悟だった。 それが恋だったのか、愛だったのか、僕には分からないけれど。 きらきらと星みたいに光を放つ水晶の中、僕の腕の中で。 一生のお願いだ、と君は言った。 これからおれのする事を赦してくれ、と。 僕は君を赦さない。 なぜならそれが君の望んだ事だから。 赦すも赦さないもないんだ。 君の望みは僕の望みだから。 だから、君がそうした事は僕も望んだ事になる。 舞い散る光はまるで星屑みたいで。 きっと、君は星になるんだと思った。 01: 星が降る日 あなたがゆく日 |
だんだんと宙に解けていく君の光。 優しい君の色と、君の心を映しているようだとふと思う。 僕の痛みも、心の一部さえも溶かし込んで。 君と一緒に逝くのなら、それがいいのだと思う。 とても幻想的な光景はまるで夢の中にいるようだとも思うのに。 これが夢だったらどれだけいいだろう。 喉がからからに渇いて、引き攣れた音を微かに漏らす。 鼻の奥がつんとした。 でも不思議と涙は零れなかった。 哀しいと感じる心が拒絶しているのかも知れない。 ただ呆然と、僕は君の光を眺めていた。 02: 優しいひかり |
腕の中の君の体が、先の方から砂みたいに崩れていく。 崩れた先から、まるで星屑みたいに煌めいて溶ける。 それは声にならないほど幻想的で、恐ろしくて。 同時にとても、美しかった。 段々と軽くなっていく君のからだを、僕は強く抱き締めた。 確かにここに、君は居たのだと、刻み付けるように。 それに対して痛いよと、君は軽口を叩いて。 こんな時にまで軽口を叩く、そんな君に切なくなった。 いやだ、置いていかないで。 声に出せるほどに僕は強くはなくて。 ごめんと呟いて、僕の顔に君が手を伸ばして触れてくる。 僕に触れた指先から、また砂に光に変わってく。 この砂も、光も、きっと君の命のかけら。 03: さらさら さら ら ほしのすな |
崩れていく君を見送る間、僕は一度も瞬きが出来なかった。 一瞬でも目を閉じてしまえば、これが夢に変わるかも知れないと思う。 けど、それ以上に一瞬で君が溶けてなくなってしまうのが怖かった。 そんなことをしても、時が止まるはずもなくって。 目の前で光に変わっていく君の姿が、とても愛しくて。 果てしないほど長いような、けれどあっという間だったような。 それでも幾つもの言葉を交わしたはずなのに、それを覚えているのに。 涙を流す間もなく、声を引き絞る暇もなく。 何も残さないまま、沢山のものを僕に与えた君がゆく。 僕は君に何を与えられただろう。 君に取っては瞬き見たいに過ぎていったであろう時間の中で。 僕は君に何を与えられたのだろう。 掛け替えの無い君は、僕に沢山のものを与えてくれた。 04: 瞬きの間に |
まだ、今は君の名を呼ぶ事が出来ない。 僕の口から語るには、勇気が足りない。 何時か、君を呼ぶ事が出来るようになる日が来るのだろう。 何時か、誰かに君を話す事が出来る日が来るのだろう。 君に伝わなかった思いを口にする日が来るのだろう。 今はまだ歩みだすには生々しい傷口だけれど。 きっといつか渇く日が来るのだと。 僕が生きている限り、僕は変わっていくのだと。 僕が生きている限り、僕の中の君もまた、変わっていくのだと。 何時か神代が弊える頃に、僕は君の名を呼ぶのだろう。 果てしない時の先に、僕は君を見出すのだろう。 05: 星を呼ぶ呪文 |
もうどれほど昔の話になるのか、正確に語る事はできないけれど。 君が僕を残していった日の事は、未だはっきり覚えている。 君の声も、姿も、その命さえも弊えてしまったけれど。 君が生きた時間のほんのひとときを共に過ごしただけに過ぎないけれど。 僕が生きた時間のほんのひとときが重なったに過ぎなかったけれど。 君と過ごした時間が、僕の中で一番彩鮮やかにあった。 それは決して消えない記憶なのだから。 消す事を僕が赦さないたった一人の君の記憶。 鮮やかすぎるほど鮮やかにあった君の笑顔。 彩られた君はまるで流れ星かなにかのように、生き急いで見えたけれど。 僕を捜す為に、長い時を駆けた君が。 僕を思い、逝き急いだのだと。 鮮やかな君が、僕の瞳から離れない。 06: 流れ星みたいだった、あなたの、生命 |
何時か誰かが、逝った人は星になるのだと言っていた。 星の光は何億何万という彼方から、この世界に降り注いでいるのだと聞いた。 もしも、君が星になったのなら。 僕がずっとずっと、君程以上に生きたのならば。 いつか、僕は君の光を受け取ることができるのかな。 そう思えたのならば、怖い事なんて何一つ無いような気がする。 もう一度、君のカケラに出逢えるのならば。 恐ろしく深い闇も、気の遠くなる歳月も、何も怖くない。 この世界が弊えるその時まで、僕は僕であれる気がする。 最果ての世すら、恐れる必要がない気がする。 僕はいつまでも君を待つ。 出逢えるか知れない、君のカケラを。 07: きっと、一億年後に届くよ |
永い微睡みの中で、ふと僕は我に返る。 もうどれだけ、こうしていたのだろう。 それは覚えてすらいない事だったけれど。 時々、とても懐かしい夢を見る。 どんな夢だったかは、覚えてはいないのだけれど。 それはとても、温かかった気がする。 少しだけ笑って、そして僕はまた微睡みに身を委ねるのだ。 そして、とても温かく、涙が出る程懐かしい夢を見る。 それは過去のことなのか、それとも未来のことなのか。 もう分からなくなってしまったけれど。 その夢は、とても幸せなのだ。 08: その一瞬だけは永遠 |