何がどうなったのか分からなくて、思考も行動も何もかもを僕は止めた。 唇には温かく柔らかい感触がはっきりと感じられて、僕の上手く働かない頭は考える事を放棄する。 なにが起こっているのか、僕には上手く理解する事が出来なかった。 ただ、目の前にあったテッドの顔が、ゆっくりとその大きな瞳を開きながら遠ざかっていったのを見て、ああ、キスをされたのだと初めて理解したのだ。 きみときす 「嫌、か?」 少し切なそうに眉を顰めて首を傾げるテッドの意図が見えなくて、僕は困惑する。 嫌だっただろうか。無意識のうちにさっきまでテッドの其れが触れていた唇を、そっと自分の左手で撫でた。まだ柔らかい感触が残っているような気がする。 嫌ではない、そう思ってから僕は更に混乱した。 嫌じゃない。でも、どうしてテッドがそういう行動に出たのかが分からない。 テッドの問いかけに答えるべく、僕は小さく首を横に振った。そう、嫌ではなかった。 「よかった」 あからさまにほっとした様にテッドが微笑んだ。釣られるように、僕の目尻も緩んだ。 「エデル」 名前を呼ばれて、僕は改めてテッドと目を合わせる。夕日の色を写し取ったような大きな瞳は真剣で、少しだけ伏せてからもう一度、今度はテッドの方から視線を合わせてきた。 「もう一回、キスしていいか?」 そう紡いだテッドは真剣で、僕は困ってしまって目を伏せた。口付けられても、きっと受け入れてしまうだろう事は予想に難くない。 「目、閉じろよ」 挟んだ机に乗り出して、テッドは僕の頬をそっと撫でる。僕は言われるままに目を閉じた。 視覚が遮断されて、頬を撫でるテッドの手に肌が泡立つ。でも、不思議と不快さは全くなくて、心臓がドキドキしているのが聞こえてしまうんじゃないかってくらい鼓動の音が耳に付いた。 とても長く感じるような、けれど多分数秒の間の後、唇にもう一度あの温かく柔らかい感触が触れて来た。何度か啄む様に口付けを交わして、そのあと、唇の上を湿った生暖かいものになぞられる。 驚いて小さく肩が跳ねると、テッドは吐息が触れる程度唇を離して僕の後ろ頭を優しく撫でた。僕が目を開こうとすると、小さく呟かれる。 「少し開けて」 主語はなかったけれど、其れが唇を指す事は分かった。言葉の直ぐ後に再び口付け僕は唇を舌でなぞられて、テッドの言葉の通り小さく口を開いた。 差し入れられた舌に、思わず逃げそうになった僕の肩を、テッドの腕が抱く。間の机の所為で少し不自然な体勢だったけれど、テッドはこのまま続けるつもりのようだった。 舌を絡めて時折強く吸われて、頭の中がじんじんする。どうしていいのか分からない僕は、息を継ぐ事すら満足に出来ずに涙がこぼれた。 テッドの唇が軽く離されて、僕が息を吐くのを感じると、また口付けて。其れを何度も繰り返してから、漸くテッドの顔が離れていく。涙に潤んでいる目に、テッドがぼやけて映って見えた。 零れて幾つも筋を残した僕の涙の後を、テッドの指がなぞる。乱れた呼気を持て余す僕の目尻に、テッドがひとつ口付けた。 |
(発掘品。これ、最初は百合だったの。でも、にょたにする意味ねーなぁと落ち着いた。
展開が女々しいのは元々女の子の話だった所為でつ)