久方ぶりに逢った愛おしい人は、明朝、またこの地を去るのだという。
 それは仕方の無い事だと理解しつつも、どうしても寂しく思ってしまうのは、きっと人の性であるのだろう。テオの腕に抱かれながら、ソニアは取り留めなくそんな事を考えた。
 明日は自分も陛下の元へ赴き、命を戴いてシャサラザードへと向かう事になるだろう。今、国内が安定しているとはお世辞にも言いがたい。だから今、こうやってテオが訪ねて来てくれた事が素直に嬉しい。
「ソニア」
 名前を呼ばれて、顔を上げる。テオは優しい笑みを浮かべ、ソニアの頬にその大きな手を添えた。
「戻って来たら、公布したいと思う」
 言葉少なな将軍が更に言葉を選んで告げた事に、ソニアは目を見開いた。
「それから式の準備になる。故に挙式はもう少し先になってしまうが、構わないだろうか」
 不器用な男なりの不器用な告白に、ソニアは涙が出そうになった。自分が愛されているのだと、不意打ちの様に再確認させられる。
「…………何故泣く」
 本気で途方に暮れたような言葉に、ソニアは自分が泣いている事に気が付いた。
「嬉しくて涙が出たようだ」
 自分で涙を拭おうとすればテオの手に遮られ、訝しんで顔を上げれば眦に唇が降ってくる。
「貴方は時々どうしようもなく気障だ」
 目を閉じて口付けを受けながら、ソニアはどうしても笑いを耐える事が出来ずにくつくつと笑う。離れていく温もりに目蓋を上げれば、仏頂面のテオが何処となく赤くなっているような気がする。
「慣れぬ事はする物ではないな」
「私は嬉しい」
 見上げて笑いながら告げられて、もう一度、今度は唇にキスを落とした。