5.
 片付けを手伝うと申し出たものの、客にそんな事はさせられないと最もな事を言われ、結局僕は引き下がるしか出来なかった。結構人数が居たから大変だといったのだけど、ティルさんは意外と頑固なのだと分かっただけだった(見れば分かるだろうとルックには呆れられたけど)。
 とりあえずシーナとルックの部屋へ行く。ティルさんとの会話から、ルックは何か知っていそうだったし、シーナの反応もちょっと気になっている。それにテッドさんの事を尋ねてみてもいいものか相談もしたかった。
「……何か用」
 ドアをノックすれば、何故か幾分機嫌が悪いらしいルックが出て、呆気にとられた。思わず沈黙してしまうと、用も無いのに来るなと言わんばかりにドアを閉められそうになり慌てる。
「ちょ、閉めないで!」
「ならさっさと言いなよ」
 心持ちイライラしているようで、ルックはドアを開けて仁王立ちする。隙間から向こう側が見えて、シーナと目が合うと笑われた。なに、タイミングが悪かったと言いたいのか。全くだ。
「ちょっと聞きたい事あるんだけど、いい?」
 問えばルックは傍目で分かるほど眉間に皺を寄せて、体を少し端に寄せた。それを了承の意だと解して、僕は部屋の中へと体を滑り込ませる。
「それで?」
「何、聞きたい事って?」
 ルックは後ろ手にドアを閉めながら、シーナは笑いをかみ殺しながら(何がそんなに嬉しいんだこの人は)それぞれ僕に聞いてくる。
「あのさ、ご飯食べてる時のシーナの反応が気になった」
「直球だな」
 アンタに言われたくないよ。
「で?」
 そのまま先を促せば、シーナは顎を掻きつつ小さく息を吐く。
「知ってた味に似てた。ってか同じだったからな」
「変な事なの?」
「まあ、割と?」
 ニュアンスはあり得なくもないような感じだったので、とりあえず納得して今度はルックに向き直る。
「ルックは何か知ってるの?」
「何かって何さ」
 シーナ的に言えば「直球」に尋ねれば、ルックは読めないけれどいつもより不機嫌そうな顔で打ち返して来た。なんだか取り付く島も無いような気がするのは気の所為じゃないと思う、割と。
「何か変な感じがするんだよねってシーナと話してたんだけど、ルックは何か知ってそうだなと思った」
「それを聞いてたら、お前が来たんだよ」
 苦笑しながらシーナが言う。
「…………まあ、悪くない予想だね」
 眉間の皺を深くしながら、ルックが口を開く。
「でも君には話せない。君もデリカシーが無い訳じゃないから、アイツの持ってる紋章に触れる事を僕が言うべきじゃない事くらい分かるでしょ。アイツが君に話したら、僕もそれを話してやらない事も無いけど」
 一端言葉を区切って、ルックはシーナに向けていった。
「本当はアンタにも僕から話すべき事じゃない。此れは限りなくプライベートな問題だって事」
 ルックは毒吐きだけど、本当はどうしようもなくいいヤツだって分かってるから、その言葉がティルさんを慮っている事が伝わってくる。
「分かった」
 素直に頷く僕とシーナに、ルックは安堵したように(見えた)息を吐く。
「あとね」
 テッドさんの事を聞いてみても大丈夫かと相談すれば、シーナはちょっと難しい顔をした。
「正直な話、結構平気そうにしてるだろうと思う。が、避けた方が無難だろうな」
「大丈夫でしょ」
 さらりと正反対な事を言ったルックに、シーナが苦虫を噛み潰した顔をする。
「お前な」
「アイツはそんな事でショックを受ける玉じゃないでしょ。ショックだったらそれこそこっちが衝撃だね」
 ルックから見てティルさんってどんな人なのか、ちょっと気になった。




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