6. 結局そこそこ話し込んだ後、僕は二人に宛てがわれた部屋を後にした。 手持ち無沙汰になってしまったので、どうしようか少し迷ったけれど結局、充てられた部屋へと戻って本棚からさっき目をつけた本を借りて読む事にする。 僕に宛てられたティルさんの親友が使っていたという部屋のドアを開くと、不意に僅かな気配を感じる。何だろうとそこそこに広い部屋を見回すものの、部屋には僕以外の人はいない。 見られている、そう感じたけれどそれは確かなものではなく。そして敵意や悪意を感じる視線でないのもまた事実。 なにか変化を捜して、部屋をよく見渡せば、机の上に一枚、紙が置かれているのに気が付いた。それは部屋を出る前には確かになかったはずのものだ。 シーナ達の部屋を訪ねている時にでも、ティルさんあたりが訪ねて来たのだろうか。ナナミや他の面子は書き置きなんてせずに、捜しにくるはずだ。 悪い事をしてしまったと思いつつも、僕は机の上の紙を見た。そして思わず動きを止める。 紙には真ん中に小さい字で短く書かれていた。 『暗いよ……怖いよ………寂しいよぉ……』 使われたと思われる羽ペンがインクを散らして紙を滲ませている。 これは一体何の悪戯なのだろう、わざわざ僕を怖がらせる為にやっているのだろうか。 羽ペンを脇に避けて紙を手に取ると、後ろの方から誰かの笑う気配がして振り返る。振り返りながらこんな事をして何が楽しいんだと本気で思った。 けれど、そこには誰もおらず、扉は僕自身が閉めたままで誰かが開ける気配も、その向こう側に居る気配も感じられない。 血が急激に下がっていくような感じがした。ともすれば震えだしてしまいそうな手に力を入れる。心臓の鼓動の音が、やけに大きく聞こえる。 「……悪戯、ですよね」 自分で呟いて、だとしたら質の悪い悪戯だと思う。 ティルさんがやったのだと思い込みたくて、むしろそう思い込むことで自分を平静で居させようとしているのは分かってる。 後ろでカタッと音がして、自分でも信じられないくらい肩が跳ねた。 結局僕は、一人でいるのに耐えきれずに部屋から飛び出した。 それが悪戯だと確認する為に、向かう場所は決まっている。 この家の主、ティルさんの部屋に。 「ティルさん!」 ノックなしに勢い良く扉を開けた僕は、後から考えてみると相当余裕が無かったんだと思う。ベッドに腰掛け本を読んでいたティルさんが、裏返った声で名前を呼ばれて顔を上げる。 「あぁ、リオウ」 少し驚いたように僕を呼んでどうしたのと尋ねられて、僕は手に持っていた紙を突きつけて縋るように言う。 「これ、ティルさんの悪戯ですよね?」 もう半分以上、そうであって欲しいという願望で出来上がっている言葉だが。 「…………」 立ち上がって僕の手から紙を受け取ったティルさんは困ったように笑っていった。 「残念だけど、これは僕の手紙じゃないよ」 menu/back/next |